この項目は、なぜ人は国境を越えて移動するのか(経済・人口・紛争)と、世界と日本の言語・文化、そして日本が文化をどう発信しているかを、学習者が日本に来る背景としてつなげて理解する回。
50項目講座の第1回は、「社会・文化・地域」の区分から「世界と日本の社会と文化」です。
日本語の教室には、仕事のために来た人、家族と一緒に来た人、ふるさとを追われて来た人など、さまざまな事情を持つ学習者がいます。
その事情の背景にあるのが、世界の経済や人口、紛争の動きです。
この回では、学習者が日本に来るまでの「大きな流れ」を、5つのテーマで整理します。
動画で学ぶ「世界と日本の社会と文化」(約7分)
この回の要点を、LULUとHARUの会話で約7分の動画にまとめました。
通勤中や家事の合間に、耳で聞くだけでも復習できます。
最後の確認クイズ2問で、覚えたかどうかを試してみてください。
この項目で求められること
この項目では、国際社会の中で人が移動する理由と、世界の動きをふまえた日本の文化発信の取り組みを理解することが求められます。
試験では、年号や条約の名前だけでなく、「どうしてそうなったのか」というつながりが問われます。
この回の5つのテーマは、次のように一本の流れでつながっています。
- 日本の経済が変わり、少子高齢化で働き手が足りなくなった
- 世界では人口が増え、紛争でふるさとを離れる人も増えている
- その結果、日本に来る外国人が増え、日本語を学ぶ必要が生まれた
- あわせて、日本は文化や日本語を海外に発信し、日本に関心を持つ人を増やしている
ポイント① 日本のグローバル化の流れ
経済大国から「失われた10年」へ
日本は1950年代後半から1970年代にかけて高度経済成長をとげ、世界有数の経済大国になりました。
1985年のプラザ合意で急激な円高が進み、その後、株や土地の値段が異常に上がるバブル景気(1980年代後半)が起こります。
この時期、日本の経済力が注目され、海外で日本語を学ぶ人も増えました。
しかし1990年代初めにバブルが崩れると、日本経済は長い停滞期、いわゆる「失われた10年」に入ります。
企業は人件費の安い中国やインドなど、新しく成長した国々(BRICSなど)に工場を移していきました。
人手不足と外国人材の受け入れ
2000年代に入ると、少子高齢化による働き手の不足が大きな課題になります。
特に地方の介護・農業・建設などの分野で、人手が足りなくなりました。
2004年には、日本経済団体連合会(経団連)が「外国人材受入れに関する提言」を発表し、外国人材を積極的に受け入れる方向を示しました。
ここから、外国人の受け入れについての議論が本格的に始まり、第2回で学ぶ技能実習・特定技能などの制度につながっていきます。
| 時期 | できごと | 日本語教育との関係 |
|---|---|---|
| 1950年代後半〜1970年代 | 高度経済成長 | 日本が経済大国になり、日本への関心が高まる |
| 1985年 | プラザ合意 → 円高 | 海外旅行ブーム、日本企業の海外進出 |
| 1980年代後半 | バブル景気 | 海外で日本語学習者が増える |
| 1990年代 | バブル崩壊・「失われた10年」 | 工場の海外移転が進む |
| 2000年代〜 | 少子高齢化・人手不足、2004年 経団連の提言 | 外国人材の受け入れが進み、国内の日本語教育の必要性が高まる |
試験ではこう問われる
- できごとの順番(高度経済成長 → プラザ合意 → バブル → 失われた10年)を並べかえる問題
- 2004年の経団連の提言が「何をきっかけに、何を求めたか」(人手不足 → 外国人材の受け入れ)
ポイント② 世界人口と難民
世界人口の増加と都市化
国連人口基金の『世界人口白書2025』によると、世界の人口は約82億3,200万人で、過去最多を更新しています。
1位はインド(約14億6,400万人)、2位は中国(約14億1,600万人)で、日本は約1億2,310万人で12位です。
18世紀以降、食料生産の安定や医療の発達で死亡率が下がり、人口が急激に増えました。これを人口爆発といいます。
あわせて、仕事や教育の機会を求めて農村から都市へ人が移る人口の都市化も進んでいます。
人口が増えても仕事が足りない国では、よりよい仕事を求めて国境を越える人が生まれます。これが、海外へ働きに出る人の背景の一つです。
難民を守るしくみ
戦争や迫害から逃れる人を守るしくみは、2つの世界大戦をきっかけに整えられてきました。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 1948年 | 世界人権宣言:すべての人の基本的人権を国際的に示した |
| 1950年 | 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が設置される |
| 1951年 | 難民の地位に関する条約(難民条約)が採択される |
| 1967年 | 難民の地位に関する議定書:条約の地域・時間の制限をなくした |
難民条約では、人種・宗教・国籍・特定の社会的集団の一員であること・政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあり、国籍のある国の外にいて、その国の保護を受けられない人を難民としています。
この定義にあてはまる人を条約難民、国境を越えずに自分の国の中で避難している人を国内避難民といいます。
UNHCRの報告では、2025年末の時点で難民は約4,160万人、国内避難民は約6,870万人にのぼり、世界の約70人に1人が、ふるさとを追われています。
日本の取り組み
日本は1981年に難民条約、1982年に議定書に加入しました。
2023年12月からは、条約上の難民にはあたらないものの、紛争から逃れてきた人などを守る補完的保護対象者の認定制度が始まり、ウクライナから避難した人などが認定されています。
認定された人には、日本で自立して暮らせるよう、日本語教育(572時間)や生活ガイダンスを含む定住支援プログラムが用意されています。
試験ではこう問われる
- 世界人権宣言・難民条約・議定書の年号と中身の組み合わせ
- 条約難民と国内避難民のちがい(国境を越えたかどうか)
- 日本の補完的保護がどんな人を対象にした制度か
ポイント③ 世界と日本の言語と文化
世界の言語
世界には、およそ3,000〜7,000の言語があるといわれています。
数に幅があるのは、あることばを独立した「言語」と考えるか、ある言語の「方言」と考えるかの線引きが難しいためです。
国際連合の公用語は、英語・フランス語・ロシア語・中国語・スペイン語・アラビア語の6つです。
一方で、話す人が減り、なくなりそうな消滅危機言語は3,000以上あるといわれます。
そこでユネスコは、2022〜2032年を「国際先住民言語の10年」とし、先住民のことばを守り、使い続けられるようにする取り組みを進めています。
ことばがなくなると、そのことばで受け継がれてきた暮らしの知恵や物語、ものの見方も一緒に失われてしまいます。
日本の言語と文化
日本は「日本語だけの国」と思われがちですが、実際にはアイヌ語、琉球語(琉球諸語)、小笠原クレオールなどのことばがあり、単一言語国家ではありません。
ユネスコが2009年に発表した調査では、日本の8つのことばが「消滅の危機にある」とされました。
| 危機の度合い | ことば |
|---|---|
| 極めて深刻 | アイヌ語 |
| 重大な危険 | 八重山語、与那国語 |
| 危険 | 八丈語、奄美語、国頭語、沖縄語、宮古語 |
日本のなくなりそうなことばについては、第9回の言語政策と「ことば」でくわしく扱います。
また日本の文化は、中国から伝わった漢字や仏教、西洋から入った技術や思想などを、そのまま取り入れるのではなく、自分たちの風土や感覚に合わせて作り直してきたという特徴があります。
試験ではこう問われる
- 世界の言語の数に幅がある理由(言語と方言の線引きが難しい)
- 国連の公用語6つ(英語・フランス語・ロシア語・中国語・スペイン語・アラビア語)
- ユネスコの「国際先住民言語の10年」(2022〜2032年)
- 日本が単一言語国家ではないことを示す例(アイヌ語・琉球諸語・小笠原クレオール)
ポイント④ 日本の文化発信と日本語教育
クールジャパン
2000年代以降、日本はアニメや食、伝統文化など、海外で人気のある文化を、国のイメージを高める力(ソフトパワー)として発信してきました。
これがクールジャパンです。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 2010年ごろ | 経済産業省の取り組みとして始まる |
| 2012年 | クールジャパン戦略担当大臣が置かれ、内閣府が中心となる体制に |
| 2019年 | 「クールジャパン戦略」が決定される |
| 2024年 | 「新たなクールジャパン戦略」が決定される |
アニメやマンガをきっかけに日本語を学び始める人は、今も海外で多くいます。
文化のWA2.0と日本語パートナーズ
2023年の日本ASEAN友好協力50周年をきっかけに、国際交流基金(JF)の事業として「次世代共創パートナーシップ ―文化のWA2.0―」が始まりました。
日本とASEANの若い世代どうしの交流を、知的・文化交流と、日本語教育の2つの柱で進めるものです。
日本語教育の柱にあたるのが「日本語パートナーズ」で、日本の人をアジアの中学校・高校などに送り、日本語の授業のサポートや日本文化の紹介をしています。
日本語パートナーズは、2014年に始まった「文化のWAプロジェクト」から続く事業で、専門の資格がなくても参加でき、現地の日本語教師のアシスタントとして授業を手伝います。
日本語教師をめざす人が、海外の教室を体験する入り口にもなっています。
教室で日本文化をどう扱うか
大学などでは、留学生向けに「日本事情」「日本文化理解」といった授業があります。
ここで扱うのは、生け花や落語のような伝統文化だけではありません。衣食住、季節の行事、防災、環境など、暮らしにかかわるテーマも多く取り上げられます。
大切なのは、日本の文化を一方的に教えるのではなく、学習者が自分の国の文化とくらべ、ちがいや共通点に気づき、日本語で発信できるようにすることです。
試験ではこう問われる
- クールジャパンの流れ(経済産業省で開始 → 2012年 担当大臣 → 2019年 戦略 → 2024年 新たな戦略)
- 文化のWA2.0と日本語パートナーズを行う機関(国際交流基金)
- 「日本事情」の授業で大切なこと(一方的に教えず、学習者が自国とくらべ、日本語で発信できるようにする)
学習者はここでつまずく
特に、事情があって日本に来た学習者にとっては、ふるさとの文化は大切な心のよりどころです。
文化の紹介が、一方的なものになってしまっていることが原因です。
確認クイズ(5問)
答えを考えてから、「答えを見る」を押してください。
Q1. 次のできごとを、起きた順に正しく並べたものはどれ?
① バブル景気 → プラザ合意 → 高度経済成長
② 高度経済成長 → プラザ合意 → バブル景気
③ プラザ合意 → 高度経済成長 → バブル景気
④ 高度経済成長 → バブル景気 → プラザ合意
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正解:② 高度経済成長 → プラザ合意 → バブル景気
1950年代後半〜70年代に高度経済成長、1985年にプラザ合意、その後1980年代後半にバブル景気が起こりました。
Q2. 2004年に、少子高齢化と人手不足をふまえて外国人材の積極的な受け入れを求める提言を出した団体はどれ?
① 国際交流基金 ② 日本経済団体連合会(経団連) ③ 国連難民高等弁務官事務所 ④ 文化庁
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正解:② 日本経済団体連合会(経団連)
「外国人材受入れに関する提言」をきっかけに、外国人の受け入れの議論が本格化しました。
Q3. 紛争などで家を追われたが、国境を越えずに自分の国の中で避難している人を何という?
① 条約難民 ② 国内避難民 ③ 補完的保護対象者 ④ 定住者
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正解:② 国内避難民
難民条約の定義にあてはまり、国籍のある国の外にいる人は条約難民です。
Q4. 国際連合の公用語として、正しくないものはどれ?
① アラビア語 ② スペイン語 ③ 日本語 ④ ロシア語
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正解:③ 日本語
国連の公用語は、英語・フランス語・ロシア語・中国語・スペイン語・アラビア語の6つです。
Q5. 国際交流基金が、アジアの中学校・高校などに日本の人を送り、日本語の授業をサポートする事業はどれ?
① クールジャパン ② 日本語パートナーズ ③ 技能実習 ④ 国際先住民言語の10年
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正解:② 日本語パートナーズ
「次世代共創パートナーシップ ―文化のWA2.0―」の日本語教育の柱にあたる事業です。
まとめ

- 日本のグローバル化:高度経済成長 → プラザ合意(1985)→ バブル → 失われた10年、そして少子高齢化と2004年の経団連の提言
- 世界人口は約82億人。人口爆発と都市化が人の移動の背景に
- 難民を守るしくみ:世界人権宣言(1948)・難民条約(1951)・議定書(1967)、日本は補完的保護(2023年〜)も
- 世界の言語は3,000〜7,000。国連公用語は6つ。日本も単一言語国家ではない(アイヌ語・琉球語・小笠原クレオール)
- 文化発信:クールジャパン、文化のWA2.0と日本語パートナーズ
第1回では、学習者が日本に来る背景となる世界と日本の動きを、経済・人口・難民・言語・文化発信の5つのテーマで学びました。
次回の第2回「日本の在留外国人施策」では、日本に来た外国人を受け入れる制度を、技能実習・特定技能・育成就労の流れで整理します。
講座の全体は、50項目講座の目次から確認できます。
※数字は、国連人口基金『世界人口白書2025』、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)「グローバル・トレンズ・レポート2025」、出入国在留管理庁、内閣府の公表資料にもとづいています。項目の論点は、文部科学省「登録日本語教員 実践研修・養成課程コアカリキュラム」と、その解説書の章立てを参考に整理しています。