この項目は、ことばが足りないときに学習者が使うコミュニケーションストラテジー(回避・言い換え・母語使用・援助要求・身振り)と、会話を進めるための談話ストラテジー(間接発話行為・予告発話・先行発話)、聞き手のあいづち・オーバーラップを学ぶ回。試験では具体例がどのストラテジーにあたるかがよく問われる。
50項目講座の第10回は、区分「言語と社会」から「コミュニケーションストラテジー」です。
外国語で話すとき、知らないことばや思い出せないことばがあっても、人はいろいろな工夫をして気持ちを伝えようとします。
この回では、そうした工夫と、会話をうまく進めるためのしくみを見ていきます。
動画で学ぶ「コミュニケーションストラテジー」(約5分)
この回の要点を、LULUとHARUの会話で約5分の動画にまとめました。
通勤中や家事の合間に、耳で聞くだけでも復習できます。
最後の確認クイズ2問で、覚えたかどうかを試してみてください。
この項目で求められること
文部科学省のコアカリキュラムでは、この項目の到達目標を「社会生活における言語活動を達成するための言語的な方略(ストラテジー)や会話を成立させるための仕組みについて理解している」としています。
ストラテジーは「方略」、つまり目的を達成するための工夫のことです。
試験では、学習者や話し手の発話の例を見て、それがどのストラテジーにあたるかを選ぶ問題がよく出ます。
ポイント① コミュニケーションストラテジーと回避
コミュニケーションストラテジーとは
会話の中で、うまく伝わらないなどの問題が起きたとき、それを解決するために使う工夫をコミュニケーションストラテジーといいます。
第二言語の学習者は、足りないことばの力を補うために、次の5つのようなストラテジーを使います。
| ストラテジー | どんな工夫か |
|---|---|
| 回避 | うまく言えない話題や表現を避ける |
| 言い換え | 知っていることばで説明する、ことばをつくる、たとえる |
| 母語使用 | わからない所を母語で言う |
| 援助要求 | 相手に助けを求める |
| 身振り(ジェスチャー) | 手や体の動き、表情で補う |
なお、ことばが足りないときにこうした工夫をして会話を続ける力は、コミュニケーション能力(伝達能力)の一つとして「ストラテジー能力」と呼ばれます。
回避
回避は、語彙が足りないなどでうまく言えないときに、その話題や表現そのものを避けることです。
たとえば「病院での経験」について話す課題で、「注射」や「診察」ということばがわからないために、「病院には行ったことがありません」と言って話を終わらせてしまう場合です。
また、受身の文に自信がない学習者が、「わたしは先生にほめられました」と言うべき所を、「先生がわたしをほめました」と、自信のある能動文に変えて言うこともあります。
どちらも、まちがえる危険を避けて、伝えられる範囲で安全に話そうとする工夫です。
試験ではこう問われる
- コミュニケーションストラテジーの5つ(回避・言い換え・母語使用・援助要求・身振り)の区別
- 話題を変える、受身を能動文に変えて言う、などが回避にあたること
ポイント② 言い換えと母語使用
言い換え
言い換えは、伝えたいことばが思い出せないときや知らないときに、別の言い方で補う工夫です。
- 知っていることばを組み合わせる:「消防士」→「火を消す、働く人」
- 自分でことばをつくる(造語):「栓抜き」→「びんあけ」
- たとえで表す(比喩):「結露」→「まどのなみだ」
正確ではなくても、意図を伝えるためにとても役に立つ工夫で、学習者の柔軟で創造的なことばの使い方が表れる場面でもあります。
母語使用
母語使用は、ちょうどいい表現がわからないときに、母語を使って伝えようとすることです。
たとえば中国語話者が、「食事する」が出てこないときに、「昨日友だちと吃饭(チーファン)しました」と、中国語をそのまま入れて話すことがあります。
また、「これはプライドというか、面子(ミエンツ)の問題ですね」のように、日本語の「プライド」や「メンツ」とは少しちがう、母語の文化に特有の考え方を伝えるために、あえて母語を使うこともあります。
母語使用は、語彙が足りないから起きることもあれば、自分の文化を表すために作戦として使うこともあるのです。
試験ではこう問われる
- 言い換えの3つの形(既知の語の組み合わせ・造語・比喩)と具体例
- 母語使用には、語彙不足によるものと、文化を表すために意図して使うものがあること
ポイント③ 援助要求と身振り
援助要求
援助要求は、うまく伝えられないときに、相手に助けを求めることです。
求め方には、直接的なものと間接的なものがあります。
| 求め方 | 例 |
|---|---|
| 直接たずねる | 「えっと…firefighter、日本語で何?」 |
| ことばの一部や音をまねて、相手に察してもらう | 「えっと…しょうぼ、しょうばし…」 |
| ことば以外で助けを引き出す | 「えっと…火事のときに…」と言いかけて止め、手を動かしたり目をさまよわせたりする |
相手の話の中にわからないことばが出てきたとき、まゆをひそめたり首をかしげたりして、言い換えや説明を求めることも、援助要求の一つです。
身振り(ジェスチャー)
身振り(ジェスチャー)は、ことばで言い切れない内容を、手ぶりや体の動き、表情などで補う工夫です。
- 「朝、ごはんを食べて、これします」と言いながら、歯をみがく動作をする
- 「弟、3人です」と言いながら、指で「3」を示す
- 「大きさはこれくらい」と、両手でサイズを表す
身振りは、ことばの不足を補うだけでなく、相手の理解を助け、ことばにしにくい情報を伝える手段にもなります。
試験ではこう問われる
- 援助要求には、直接たずねるものと、ことばの一部をまねる・言いかけて止めるなど間接的なものがあること
- 首をかしげる・まゆをひそめるなどの非言語行動による援助要求もあること
ポイント④ 談話ストラテジー
談話ストラテジーとは
人にものを頼んだり、友だちと旅行の計画を相談したりするとき、わたしたちは会話を通して何かの目的を果たそうとしています。
その目的を果たすために、相手との関係や場面に合わせて表現を選んだり、話の進め方を工夫したりすることを談話ストラテジーといいます。
直接発話行為と間接発話行為
ペンを借りたいとき、「貸してください」と、頼むための形を使ってはっきり頼むことを直接発話行為といいます。
一方、相手の状況をたずねたり、自分の状況を伝えたりして、相手に「頼まれている」と気づいてもらうことを間接発話行為といいます。
| 種類 | 例 |
|---|---|
| 直接発話行為 | 「ペンを貸してください。」「ペンを貸してくれませんか。」 |
| 間接発話行為 | 「ペン、持っていますか。」「ペンを忘れてしまって…。」 |
相手や場面によってこの2つを使い分けることも、会話をなめらかにする談話ストラテジーの一つです。
予告発話と先行発話
人に頼みごとをするとき、いきなり本題に入らず、次のような順番で話すことがよくあります。
| 発話 | はたらき | 例 |
|---|---|---|
| 予告発話 | これから何の話をするかを先に示す | 「あのー、ちょっとお願いがあるんですが」 |
| 先行発話 | 頼む理由や事情を先に伝える | 「実は、来週、国から家族が来ることになって」 |
| 依頼発話 | 頼みごとそのもの | 「来週、1週間ほど休んでもよいでしょうか」 |
予告発話は、聞き手に心の準備をしてもらい、話の意図をわかりやすくします。
先行発話は、事情や相手の状況にふれることで、頼みごとを受け入れてもらいやすくします。
ていねいさや気配りが求められる場面ほど、こうした話す順番の工夫が役に立ちます。
試験ではこう問われる
- 例文が直接発話行為か間接発話行為か(「ペンを忘れてしまって」は間接)
- 予告発話(「ちょっとお願いが…」)と先行発話(「実は…」)のちがい
ポイント⑤ 聞き手行動
聞き手は、ただ話を聞いているだけではありません。
あいづち、うなずき、オーバーラップ、視線、笑い、表情などで会話に参加していて、これらを聞き手行動といいます。
話し手と聞き手が一緒に会話をつくるうえで、なくてはならないものです。
あいづち
あいづちは、聞き手が話し手の話の合間に入れる短い反応です。
「はい」「うん」「へえ」「あー」などの感動詞のほか、「そうなんですね」「なるほど」などの短い表現も含まれます。
あいづちは、話し手への理解や共感、興味を示すはたらきがあり、バックチャネルとも呼ばれます。
会話の主導権は話し手に持たせたまま、聞き手が会話に参加していることを示すのが特徴です。
あいづちと一緒によく見られるうなずきは、ことばを使わないバックチャネルの一つです。
あいづちやうなずきの回数やタイミングは、文化によってちがいます。
日本語学習者のあいづちが少ないと、話し手に「関心がない」「聞いていない」という印象を与えてしまうことがあるため、意識して学ぶ必要があります。
オーバーラップ
会話は、ふつう話し手と聞き手がタイミングよく順番に話す、発話交替の秩序(ターンテイキング・システム)にしたがって進むとされています。
その中で、話し手が話し終わる前に聞き手が話し始め、2人の発話が一時的に重なることをオーバーラップといいます。
オーバーラップは、相手の話をさえぎる「中断」とまちがえられがちですが、次の2種類があります。
| 種類 | 例・はたらき |
|---|---|
| 協調的オーバーラップ | 相手と同じことばを重ねて共感を示す、相手のことばを先取りして言い終える。会話を盛り上げ、一体感を高める |
| 競合的オーバーラップ | 順番のタイミングがずれたり、対立したりする場面で起こる。会話の主導権の取り合いになることもある |
オーバーラップを、積極的に会話に参加している良いこととみる文化もあれば、相手の話をさえぎる失礼なこととみる文化もあります。
聞き手行動を身につけるには、文化のちがいへの理解も大切です。
試験ではこう問われる
- あいづち=バックチャネル、うなずきは非言語のバックチャネル
- 協調的オーバーラップと競合的オーバーラップのちがい、ターンテイキングの意味
- あいづちやオーバーラップの受けとめ方が文化によってちがうこと
学習者はここでつまずく
また、あいづちが少ないために「聞いていない」と思われたり、頼みごとをいきなり本題から言ってしまい、失礼な印象を与えたりすることもあります。
確認クイズ(5問)
答えを考えてから、「答えを見る」を押してください。
Q1. 「病院での経験」を話す課題で、「注射」などのことばがわからず、「病院には行ったことがありません」と話を終わらせた。これはどのストラテジー?
① 回避 ② 言い換え ③ 援助要求 ④ 母語使用
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正解:① 回避
うまく言えない話題や表現そのものを避ける工夫です。
Q2. 「結露」ということばを知らず、「まどのなみだ」と表現した。これはどのストラテジー?
① 回避 ② 言い換え ③ 身振り ④ 援助要求
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正解:② 言い換え
たとえ(比喩)を使った言い換えです。「栓抜き」を「びんあけ」と言うような造語も言い換えにあたります。
Q3. ペンを借りたいときに「ペンを忘れてしまって…」と言うのは、何にあたる?
① 直接発話行為 ② 間接発話行為 ③ 予告発話 ④ バックチャネル
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正解:② 間接発話行為
自分の状況を伝えて、相手に頼んでいることに気づいてもらう言い方です。
Q4. 頼みごとの前に言う「実は、来週、国から家族が来ることになって」のような発話を何という?
① 予告発話 ② 先行発話 ③ 依頼発話 ④ 中断
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正解:② 先行発話
頼む理由や事情を先に伝える発話です。「ちょっとお願いがあるんですが」のように話の内容を予告するのは「予告発話」です。
Q5. 相手の話に合わせて同じことばを重ねて言い、共感を示すのは何にあたる?
① 競合的オーバーラップ ② 協調的オーバーラップ ③ 回避 ④ 中断
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正解:② 協調的オーバーラップ
相手のことばを先取りして言い終えるのも、協調的オーバーラップの例です。
まとめ

- ことばの不足を補う工夫:回避・言い換え・母語使用・援助要求・身振り
- 言い換えは既知の語の組み合わせ・造語・比喩。母語使用は文化を表すために使うことも
- 援助要求は直接・間接・非言語。身振りは理解を助け、ことばにしにくい情報も伝える
- 談話ストラテジー:直接発話行為/間接発話行為、予告発話・先行発話・依頼発話
- 聞き手行動:あいづち(バックチャネル)・うなずき、協調的/競合的オーバーラップ。受けとめ方は文化でちがう
第10回では、ことばが足りないときの工夫と、会話を成り立たせるしくみを学びました。
次回の第11回「待遇・敬意表現」に進みましょう。
講座の全体は、50項目講座の目次から確認できます。
※到達目標は、文部科学省「登録日本語教員 実践研修・養成課程コアカリキュラム」の必須の教育内容から引用しています。項目の論点は、その解説書の章立ても参考に整理しています。