この項目は、言語学習を支える記憶のしくみ(短期記憶・長期記憶・ワーキングメモリ・リハーサル)と、学習方法と環境のちがい(意図的学習と偶発学習、分散学習と集中学習、JSLとJFL)、そして学習理論の移り変わり(行動主義→認知主義→社会文化的アプローチ→状況的学習論)を学ぶ回。
50項目講座の第15回は、区分「言語と心理」から「言語学習」です。
ことばを学ぶときは、単語や文法を覚え、覚えたものをうまく使えるようにする必要があります。
この回では、それを支える記憶のしくみと、学び方や学ぶ環境、そして「学習とは何か」という考え方の移り変わりを見ていきます。
動画で学ぶ「言語学習」(約6分)
この回の要点を、LULUとHARUの会話で約6分の動画にまとめました。
通勤中や家事の合間に、耳で聞くだけでも復習できます。
最後の確認クイズ2問で、覚えたかどうかを試してみてください。
この項目で求められること
文部科学省のコアカリキュラムでは、この項目の到達目標を「日本語学習支援を効果的に行うために、学習の仕組みや学習環境などの基礎的な知識について理解している」としています。
試験では、記憶に関する用語の区別(維持リハーサルと精緻化リハーサル、意味記憶とエピソード記憶など)と、学習理論と研究者・キーワードの組み合わせがよく問われます。
ポイント① 記憶のしくみ
短期記憶と長期記憶
目や耳などから入った情報は、まず感覚記憶に取りこまれます。
そのうち、注意を向けた(選択的注意)情報だけが短期記憶に送られ、15〜30秒ほど保たれます。
短期記憶には容量の限界があり、一度に覚えられるのは7±2チャンク(かたまり)とも、4チャンクともいわれます。
さらに、くり返すなどの操作をした情報だけが長期記憶に送られ、長く保たれます。
- 入力 → 感覚記憶 →(注意を向ける)→ 短期記憶 →(くり返す)→ 長期記憶
- 長期記憶の情報は、使うときに短期記憶に取り出される
このモデルは、アトキンソンとシフリン(1971年)の考え方がもとになっています。
ワーキングメモリ
短期記憶の考え方を発展させたのがワーキングメモリ(作動記憶)です。
情報を一時的に覚えておきながら、同時に処理もする記憶のしくみで、読む・聞く・考えるなど、ふだんの言語活動を支えています。
バドリーのモデルでは、次のような部分からできています。
| 部分 | はたらき |
|---|---|
| 音韻ループ | ことばや音の情報を一時的に覚えておく。心の中でつぶやいて覚えるのもここ |
| 視空間スケッチパッド | 目で見た情報や、場所の情報を一時的に覚えておく |
| エピソードバッファ | いろいろな情報をまとめて、一時的に覚えておく |
| 中央制御部 | 全体をコントロールする |
ワーキングメモリの容量には個人差があり、リーディングスパンテストやリスニングスパンテストで測ることができます。
外国語副作用
母語では、音を聞き取るような基本的な処理はほぼ自動でできるので、頭の力(処理資源)の多くを、考えることに使えます。
一方、外国語、特に初級のうちは、音や文字を処理するだけで多くの力を使ってしまい、考える力が一時的に落ちます。
これを外国語副作用といいます。
上達すれば、母語に近い状態に近づいていきます。
試験ではこう問われる
- 感覚記憶→短期記憶→長期記憶の流れと、短期記憶の容量(7±2チャンク)
- ワーキングメモリの構成(音韻ループ・視空間スケッチパッド・エピソードバッファ・中央制御部)とリーディングスパンテスト
- 外国語副作用の意味
ポイント② 記憶するための方略と長期記憶の種類
リハーサル
覚えようとして、何度も声に出したり、頭の中で思いうかべたりすることをリハーサルといいます。
リハーサルには2種類あります。
| 種類 | やり方 | 「みかん」を覚える例 |
|---|---|---|
| 維持リハーサル | 形や音をくり返して、一時的に忘れないようにする | 「みかん、みかん、みかん…」とくり返す |
| 精緻化リハーサル | 知っていることやイメージと結びつけて、長期記憶に送る | みかんの姿を思いうかべる、果物の仲間だと考える |
精緻化リハーサルをすると、意味についての深い処理が行われるので、記憶に残りやすくなります。
チャンキング
いくつかの情報を、意味のある一つのかたまり(チャンク)にまとめることをチャンキングといいます。
チャンキングをすると、覚える数が減り、覚えるときも思い出すときも楽になります。
大きなかたまりで取り出せるようになると、話すときの流ちょうさにもつながります。
長期記憶の種類
長期記憶は、ことばで説明できるかどうかで、大きく2つに分けられます。
| 種類 | 例 | |
|---|---|---|
| 宣言的記憶 (ことばで説明できる) |
意味記憶(辞書のような知識) | 「みかんはかんきつ類の一つだ」 |
| エピソード記憶(日記のような経験) | 「去年の冬、祖母の家でみかんを食べた」 | |
| 手続き的記憶(ことばで説明できない・体が覚えている) | 自転車の運転、楽器の演奏、スキップ | |
一般に、エピソード記憶のほうが長く残るとされます。
いつもとちがう場所でゲームをしながら学ぶなど、時間や場所の思い出と一緒に学ぶと、長く記憶に残ることが期待できます。
試験ではこう問われる
- 維持リハーサルと精緻化リハーサルのちがい、チャンキングの意味
- 宣言的記憶(意味記憶・エピソード記憶)と手続き的記憶の区別と例
ポイント③ 学習方法のバリエーション
意図的学習と偶発学習
| 種類 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 意図的学習 | 何を学ぶかがはっきりしていて、「学ぶ」つもりで学ぶ | 単語そのものに注目し、書き写したり意味を調べたりして覚える |
| 偶発学習 | 何を学ぶかがはっきりせず、学ぶつもりのないまま学ぶ | 読み物を読んでいて、たまたま出会った単語を覚える |
偶発学習では、どれだけ深く内容を処理するかが学習の効果に関わるとされます。
多読や多聴では、語彙や表現の偶発学習が起こりうると考えられています。
集中学習と分散学習
同じ項目をくり返して覚えるとき、短い時間に集中してくり返すのが集中学習、くり返しの間に時間をあけるのが分散学習です。
一般に、分散学習のほうが効果があるとされています。
たとえば10個の単語を覚えるとき、1つ目を5回、2つ目を5回…と順に覚えるより、1つ目から10個目までを順に見ることを5回くり返すほうが、記憶に残りやすくなります。
どちらも5回くり返していますが、同じ単語をくり返す間があいているほうが、よく覚えられるのです。
試験ではこう問われる
- 意図的学習と偶発学習の区別、多読・多聴での偶発学習
- 分散学習のほうが集中学習より効果が高いとされること
ポイント④ 言語学習の環境
第二言語環境と外国語環境
学ぶことばが、学習者のまわりでふだん使われているかどうかで、環境を2つに分けます。
| 環境 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 第二言語環境(JSL) Japanese as a Second Language |
学ぶことばが、まわりで話されている | タイからの留学生が、日本で日本語を学ぶ |
| 外国語環境(JFL) Japanese as a Foreign Language |
学ぶことばが、まわりで話されていない | タイで日本語を学ぶ |
JSL環境では、教室の外でも日本語にふれ、自然に身につける機会があります。
教室学習環境と自然習得環境
教師や教科書のように、学ぶ内容を整理して示してくれる存在があるかどうかでも、環境を分けられます。
- 教室学習環境:教師やテキストがある
- 自然習得環境:教師やテキストがなく、ふだんのやりとりの中で身につける
試験ではこう問われる
- JSL(第二言語環境)とJFL(外国語環境)の区別と具体例
- 教室学習環境と自然習得環境のちがい
ポイント⑤ 学習理論の移り変わり
ことばの学び方や教え方は、その時代に注目された学習理論の影響を受けてきました。
| 理論 | 主な考え方 | キーワード |
|---|---|---|
| 行動主義 (1920〜1950年代ごろ) |
外から見える行動だけを研究の対象にする。学習は、刺激への反応が強化されて習慣になること | スキナー、刺激・反応・強化 |
| 認知主義 (1960年代ごろ〜) |
情報が入ってから出るまでの、頭の中の処理に注目する。学習者は新しい情報を知っていることと結びつけて、自分で理解していく | 情報処理 |
| 社会文化的アプローチ | 人の発達は、社会の中で人とかかわることで起こる | ヴィゴツキー、最近接発達領域、スキャフォールディング |
| 状況的学習論 | 学習は状況の中にあり、社会への参加のしかたが変わっていくこと | レイヴとウェンガー、正統的周辺参加、実践共同体 |
行動主義の例
教室で新しい単語を練習するとき、教師が単語を言い(刺激)、学習者がくり返し(反応)、教師がほめる(強化)、という流れは、行動主義の考え方にもとづいています。
最近接発達領域とスキャフォールディング
ヴィゴツキーは、一人ではできないけれど、自分より力のある人と一緒なら、または手助けがあればできる、という範囲を最近接発達領域(ZPD)と呼びました。
そのときに、仲間などから受ける手助けをスキャフォールディング(足場かけ)といいます。
正統的周辺参加
レイヴとウェンガーは、洋服の仕立て屋の弟子のような例で、学習を説明しました。
弟子は、はじめは簡単な仕事だけを受けもちます。
それは周辺的な参加ですが、仲間(実践共同体)の正式な一員としての参加です。
少しずつ責任のある仕事を任され、周辺的な参加から十全的な参加へと変わっていくことが、学習だと考えました。
これを正統的周辺参加といいます。
試験ではこう問われる
- 行動主義=スキナー(刺激・反応・強化)、認知主義=情報処理への注目
- ヴィゴツキーの最近接発達領域(ZPD)とスキャフォールディング
- レイヴとウェンガーの状況的学習論、正統的周辺参加と実践共同体
学習者はここでつまずく
また、試験の前にまとめて単語を覚える集中学習をして、すぐに忘れてしまう学習者も少なくありません。
確認クイズ(5問)
答えを考えてから、「答えを見る」を押してください。
Q1. 「みかん」を覚えるとき、みかんの姿を思いうかべたり、果物の仲間だと考えたりする方法を何という?
① 維持リハーサル ② 精緻化リハーサル ③ チャンキング ④ 偶発学習
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正解:② 精緻化リハーサル
「みかん、みかん…」とくり返すのは維持リハーサルです。
Q2. 「去年の冬、祖母の家でみかんを食べた」のような、個人の経験にもとづく記憶を何という?
① 意味記憶 ② 手続き的記憶 ③ エピソード記憶 ④ 感覚記憶
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正解:③ エピソード記憶
「みかんはかんきつ類の一つだ」のような辞書的な知識は意味記憶です。どちらも宣言的記憶にふくまれます。
Q3. タイで日本語を学ぶ環境は、どれにあたる?
① JSL(第二言語環境) ② JFL(外国語環境) ③ 自然習得環境 ④ イマージョン環境
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正解:② JFL(外国語環境)
学ぶことばがまわりで話されていない環境です。タイの留学生が日本で学ぶ場合はJSLになります。
Q4. 一人ではできないが、他者の助けがあればできる範囲を「最近接発達領域」と呼んだのはだれ?
① スキナー ② ヴィゴツキー ③ レイヴ ④ バドリー
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正解:② ヴィゴツキー
そのときの手助けをスキャフォールディング(足場かけ)といいます。
Q5. 初級の外国語学習者が、音や文字の処理に頭の力を使ってしまい、一時的に考える力が落ちる現象を何という?
① 外国語副作用 ② 化石化 ③ 過剰般化 ④ 正統的周辺参加
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正解:① 外国語副作用
上達すると、母語を使うときの状態に近づいていきます。
まとめ

- 記憶:感覚記憶→短期記憶(7±2チャンク)→長期記憶。ワーキングメモリ(バドリー)と外国語副作用
- 維持リハーサル/精緻化リハーサル、チャンキング。長期記憶は宣言的記憶(意味・エピソード)と手続き的記憶
- 意図的学習/偶発学習(多読・多聴)、分散学習のほうが集中学習より効果的
- 環境:JSL(第二言語環境)とJFL(外国語環境)、教室学習環境と自然習得環境
- 理論:行動主義(スキナー)→認知主義→社会文化的アプローチ(ヴィゴツキー・ZPD)→状況的学習論(レイヴとウェンガー・正統的周辺参加)
第15回では、ことばの学習を支える記憶のしくみと、学び方・環境・学習理論を学びました。
次回の第16回「習得過程(第一言語・第二言語)」では、ことばがどのように身についていくのかを、さらにくわしく見ていきます。
前回の第14回「談話理解」もあわせて復習しておきましょう。
講座の全体は、50項目講座の目次から確認できます。
※到達目標は、文部科学省「登録日本語教員 実践研修・養成課程コアカリキュラム」の必須の教育内容から引用しています。項目の論点は、その解説書の章立ても参考に整理しています。