この項目は、相手や場面に合わせてことばを使い分ける待遇表現(常体と敬体・スタイルシフト・人称詞・授受表現)と、敬語のしくみ(尊敬語・謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱ・美化語、絶対敬語と相対敬語、素材敬語と対者敬語)を学ぶ回。試験では例文がどの種類の敬語・表現にあたるかがよく問われる。
50項目講座の第11回は、区分「言語と社会」から「待遇・敬意表現」です。
日本語では、同じことを伝えるときでも、相手との関係や場面によって、ことばを細かく使い分けます。
この回では、その使い分けのしくみを、待遇表現と敬語の2つに分けて見ていきます。
動画で学ぶ「待遇・敬意表現」(約5分半)
この回の要点を、LULUとHARUの会話で約5分半の動画にまとめました。
通勤中や家事の合間に、耳で聞くだけでも復習できます。
最後の確認クイズ2問で、覚えたかどうかを試してみてください。
この項目で求められること
文部科学省のコアカリキュラムでは、この項目の到達目標を「様々な社会的状況において社会や集団において求められる待遇表現について理解している」としています。
待遇表現は、話し手が、聞き手や話題の人物に対する敬意や親しさ、心の距離などを、ことばで表す方法のことです。
敬語は、その待遇表現の代表的なものです。
試験では、敬語の種類の区別と、絶対敬語と相対敬語のような対になる用語がよく出ます。
ポイント① 待遇表現と文体
個性的文体と類型的文体
文体とは、ほかの表現とくらべたときに見えてくる、ことばの特徴のことです。
文体には、大きく2つの意味があります。
| 種類 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 個性的文体 | 特定の作家や作品に特有の表現 | 村上春樹の文体、『枕草子』の文体 |
| 類型的文体 | 文章のジャンルに共通する表現の形 | メール・論文・新聞・エッセイの文体、「だ・である体」「です・ます体」 |
常体と敬体
文末の形に注目した類型的文体が、常体(普通体・だ・である体)と敬体(丁寧体・です・ます体)です。
| 常体 | 敬体 |
|---|---|
| 明日は行く。 | 明日は行きます。 |
| 明日は行かない。 | 明日は行きません。 |
| 明日は行く? | 明日は行きますか。 |
| 明日は一緒に行こう。 | 明日は一緒に行きましょう。 |
話しことばでは、親しい友人には常体、初対面の人には敬体というように、この使い分けが、相手との関係や場面のあらたまり度を表す待遇表現になります。
また、「ちょっと待って」と「少々お待ちください」のように、副詞などの語彙を選ぶことでも、ていねいさの度合いを表せます。
スタイルシフト
会話の途中で、文体(スタイル)、特に常体と敬体を切り替えることをスタイルシフトといいます。
たとえば職場で同僚と話すとき、「この案件については、あとで報告しておきますね。でさ、昨日田中に会ったんだけど…」のように、仕事の話は敬体、私的な話になると常体に切り替えることがあります。
初対面の相手と敬体で話し始め、親しくなるにつれて常体に移っていくのも、よくあるスタイルシフトです。
日本語では、常体と敬体だけでなく、語彙や表現全体を通して、ていねいさのレベルを調整することが多く、これをスピーチレベルシフトとも呼びます。
試験ではこう問われる
- 個性的文体と類型的文体の区別
- 常体(普通体)と敬体(丁寧体)の使い分けが待遇表現になること
- スタイルシフト(スピーチレベルシフト)の意味と例
ポイント② 人称詞と授受表現
人称詞
自分をどう呼ぶか(一人称)、相手をどう呼ぶか(二人称)にも、相手との距離や敬意、立場が表れます。
- 一人称:「私」「僕」「俺」など
- 二人称:「あなた」「お前」「田中先生」「山田課長」など
ビジネスの場では「私」が一般的ですが、親しい友人どうしでは「俺」や「僕」がよく使われます。
また、日本の職場では、相手の名前を直接呼ぶより、「田中課長」や単に「課長」と、役職名で呼ぶことがよくあります。
授受表現
物や行為のやりとりを表す「あげる・くれる・もらう」を授受表現といいます。
日本語では、おたがいの立場や敬意のちがいを表す、大切な待遇表現の一つです。
| やりとりの向き | 自然な言い方 | 不自然な言い方 |
|---|---|---|
| 私 → 友だち | 私は友だちに本をあげた。 | ×私は友だちに本をくれた。 |
| 友だち → 私 | 友だちは私に本をくれた。 私は友だちに本をもらった。 |
×友だちは私に本をあげた。 |
話し手(または話し手側の人)から他人へ与えるときは「あげる」、他人から話し手側へ与えるときは「くれる」「もらう」を使います。
「写真を見せてあげました」「写真を見せてくれました」のように、補助動詞として使うと、行為の向きだけでなく、ありがたさ(恩恵)も表します。
ただし、自分が何かをしたときに「〜てあげた」を使うと、恩着せがましく聞こえることがあるので注意が必要です。
試験ではこう問われる
- 人称詞の選び方に、相手との距離や上下関係が表れること(役職名で呼ぶ)
- 授受表現の向き(私→他人=あげる、他人→私=くれる・もらう)と、恩恵を表すはたらき
ポイント③ 尊敬語と敬語の分け方
敬意表現と敬語の種類
敬意表現は、話し手が、相手や話題の人物に対する尊敬や謙遜、気配りを、ことばで表す表現です。
文化審議会の「敬語の指針」(2007年)では、敬語を次の5つに分けています。
| 種類 | はたらき | 例 |
|---|---|---|
| 尊敬語 | 相手や話題の人物の動作などを高める | いらっしゃる、召し上がる |
| 謙譲語Ⅰ | 自分の行為の向かう先の人物を高める | 伺う、差し上げる |
| 謙譲語Ⅱ(丁重語) | 聞き手に対して、自分の行為をていねいに述べる | 参る、申す |
| 丁寧語 | 聞き手に対して、ていねいに述べる | です、ます |
| 美化語 | ものごとを上品に述べる | お料理、お酒 |
尊敬語
尊敬語は、相手や話題の人物の動作や存在などを高めて、敬意を表す表現です。
- 特別な尊敬動詞:「食べる→召し上がる」「見る→ご覧になる」
- 「お(ご)〜になる」型:「お帰りになる」「ご出席になる」
- 尊敬の助動詞「〜(ら)れる」:「先生が来られます」
なお、「お召し上がりになる」「ご出席になられる」のように、尊敬の表現を重ねる形を二重敬語といいます。
実際には広く使われていますが、敬語を使いすぎた表現とされることもあります。
絶対敬語と相対敬語
敬語は、だれに対して使うかの決まり方によって、2つに分けられます。
| 種類 | 決まり方 | 社外の人に社長のことを話すとき |
|---|---|---|
| 絶対敬語 | 社会的な地位などで、敬語を使う相手が固定的に決まっている | 「まもなく社長がいらっしゃいます」 |
| 相対敬語 | 話し手・聞き手との関係(ウチとソト)で使い分ける | 「まもなく社長が参ります」 |
相対敬語では、社内の人と話すときは社長を高めて「いらっしゃいます」と言いますが、社外の人と話すときは、自分側の社長を低めて「参ります」と謙譲語を使います。
韓国語は絶対敬語の傾向が強く、現代日本語は相対敬語の傾向が強いとされます。
素材敬語と対者敬語
敬意をだれに向けているかによっても、2つに分けられます。
| 種類 | 敬意を向ける相手 | 例 |
|---|---|---|
| 素材敬語 | 話題に出てくる人物(=素材) | 同僚に「もうすぐ部長がいらっしゃるよ」 |
| 対者敬語 | 聞き手(=対者) | 「私から説明します」「私から説明いたします」「私からお話をします」 |
素材敬語では、聞き手が部長本人でも同僚でも、話題の人物である部長に敬意を表しています。
対者敬語は、文末の形や言い方で、聞き手に対するていねいさを調整します。
試験ではこう問われる
- 「敬語の指針」(2007年)の5分類(尊敬語・謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱ・丁寧語・美化語)と例
- 絶対敬語(韓国語の傾向)と相対敬語(現代日本語・ウチとソト)のちがい
- 素材敬語(話題の人物へ)と対者敬語(聞き手へ)、二重敬語の例
ポイント④ 謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱ
謙譲語は、自分や自分側の人の行為をへりくだって述べることで、相手や話題の人物に敬意を表す表現です。
大きく、謙譲語Ⅰ(受け手尊敬表現)と謙譲語Ⅱ(丁重語)の2つに分けられます。
謙譲語Ⅰ(受け手尊敬表現)
自分の行為が相手や第三者に向かうとき、その向かう先の人物を高めるために、自分を低く述べる表現です。
「明日、先生の研究室に伺います」「昨日、先生に本を差し上げました」では、行為の向かう先である「先生」を高めています。
- 特別な謙譲語動詞:「行く→伺う」「あげる→差し上げる」
- 「お(ご)〜する」型:「お持ちする」「ご説明する」
- 「〜ていただく/お(ご)〜いただく」型:「書いていただく」「ご出席いただく」
謙譲語Ⅱ(丁重語)
聞き手に対して、自分の行為をていねいに述べることで敬意を表す表現です。
行為の向かう先がなくても使えるのが特徴です。
「田中と申します。弊社の営業をしております」「本館は9時で営業を終了いたします」のように、話題の人物を高めるというより、聞き手にていねいに述べることに重点があります。
- 特別な動詞:「言う→申す」「行く/来る→参る」「いる→おる」
- サ変動詞:「説明いたします」「お話しいたします」
- 接頭辞:「拙著」「愚見」「小社」「弊社」など
「私から部長に資料をお送りいたします」のように、行為の向かう先(部長)を高め、同時に聞き手にもていねいに述べる、両方のはたらきを兼ねた使い方もあります。
試験ではこう問われる
- 謙譲語Ⅰ(向かう先を高める・伺う、差し上げる)と謙譲語Ⅱ(聞き手にていねいに・申す、参る)の区別
- 謙譲語Ⅱは、行為の向かう先がなくても使えること(「9時で終了いたします」)
ポイント⑤ 軽卑語と美化語
軽卑語
相手を軽く見たり、見下したりするつもりで使うことばを軽卑語といいます。
マイナスの待遇表現で、「てめえ」「貴様」などが代表的です。
これらのことばは、もとは相手に敬意を表すことばでしたが、使われ方が変わるうちに敬意が下がり、今では相手をばかにする表現になっています。
このように、ていねいなことばでも、くり返し使われるうちに敬意が下がっていくことを敬意低減の法則といいます。
美化語
ことばに、ていねいさや上品さを加える表現を美化語といいます。
「お料理」「お酒」「ご案内」のように、接頭辞の「お(ご)」をつけた名詞がその例です。
美化語は、相手に直接敬意を表すというより、話全体の品のよさや雰囲気を整えるはたらきをします。
ただし、「ピアノのお教室」「お紅茶」のように「お(ご)」を多くつける言い方は、使う人が限られます。
「おビール」「おリボン」のように外来語に「お」をつける言い方は少し特別で、主にデパートや飲食店などで使われるサービス敬語の一つとされます。
試験ではこう問われる
- 軽卑語(てめえ・貴様)と敬意低減の法則
- 美化語(お料理・ご案内)のはたらきと、外来語に「お」をつけるサービス敬語
学習者はここでつまずく
また、目上の人に「〜てあげます」を使ったり、いつまでも敬体で話してスタイルシフトができず、相手との距離が縮まらなかったりすることもあります。
確認クイズ(5問)
答えを考えてから、「答えを見る」を押してください。
Q1. 職場で同僚と、仕事の話は敬体、私的な話になると常体に切り替えることを何という?
① コード・スイッチング ② スタイルシフト ③ 授受表現 ④ 敬意低減
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正解:② スタイルシフト
ていねいさのレベル全体を調整することを、スピーチレベルシフトとも呼びます。
Q2. 社外の人に「まもなく社長が参ります」と、自分側の社長を低めて話すのは、どの敬語の特徴?
① 絶対敬語 ② 相対敬語 ③ 美化語 ④ 二重敬語
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正解:② 相対敬語
ウチとソトの関係で使い分けるのが相対敬語です。現代日本語はこの傾向が強く、韓国語は絶対敬語の傾向が強いとされます。
Q3. 「明日、先生の研究室に伺います」の「伺う」は、どの種類の敬語?
① 尊敬語 ② 謙譲語Ⅰ ③ 謙譲語Ⅱ(丁重語) ④ 美化語
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正解:② 謙譲語Ⅰ
行為の向かう先である「先生」を高める表現です。聞き手にていねいに述べる「参る」「申す」は謙譲語Ⅱです。
Q4. 「お召し上がりになる」のように、尊敬の表現を重ねた形を何という?
① 二重敬語 ② 対者敬語 ③ 軽卑語 ④ サービス敬語
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正解:① 二重敬語
広く使われていますが、敬語を使いすぎた表現とされることもあります。
Q5. 「貴様」のように、もとは敬意を表すことばが、くり返し使われるうちに敬意が下がることを何という?
① 敬意低減の法則 ② 相対敬語 ③ スタイルシフト ④ 美化語
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正解:① 敬意低減の法則
「てめえ」「貴様」は、今では相手を見下す軽卑語になっています。
まとめ

- 文体:個性的文体と類型的文体、常体と敬体、スタイルシフト(スピーチレベルシフト)
- 人称詞(役職名で呼ぶ)と授受表現(あげる・くれる・もらう、恩恵を表す)
- 敬語の5分類:尊敬語・謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱ(丁重語)・丁寧語・美化語。二重敬語
- 絶対敬語(韓国語)と相対敬語(現代日本語・ウチとソト)、素材敬語と対者敬語
- 軽卑語と敬意低減の法則、美化語とサービス敬語
第11回では、相手や場面に合わせてことばを使い分けるしくみを、待遇表現と敬語から学びました。
次回の第12回「言語・非言語行動」に進みましょう。
前回の第10回「コミュニケーションストラテジー」もあわせて復習しておきましょう。
講座の全体は、50項目講座の目次から確認できます。
※到達目標は、文部科学省「登録日本語教員 実践研修・養成課程コアカリキュラム」の必須の教育内容から引用しています。敬語の5分類は、文化審議会答申「敬語の指針」(2007年)にもとづいています。項目の論点は、その解説書の章立ても参考に整理しています。