この項目では、学習を左右する動機づけ(統合的・道具的、内発的・外発的)と不安、そして自己効力感などの心の要因と、教師の手助けの仕方を押さえるのが基本。
50項目講座の第19回は、「言語と心理」の区分から「日本語の学習・教育の情意的側面」です。
「情意」とは、やる気や不安、自信といった、気持ちや感情にかかわる面のことです。
ことばの力は、頭の良さだけでなく、こうした気持ちの面にも大きく左右されます。
動画で学ぶ「日本語の学習・教育の情意的側面」(約2分)
この回の要点を、LULUとHARUの会話で約2分の動画にまとめました。
通勤中や家事の合間に、耳で聞くだけでも復習できます。
最後の確認クイズ2問で、覚えたかどうかを試してみてください。
この項目で求められること
文部科学省のコアカリキュラムでは、この項目の到達目標を「学習に影響を与える心理的要因や、学習者の心的側面における対応に関して理解している」としています。
ポイントは、学習を左右する心の要因を知ることと、それに対して教師がどう手助けするかの2つです。
ポイント① 動機づけの種類
学習を始めたり続けたりする気持ちの力を、動機づけ(モチベーション)といいます。
動機づけは、2つの分け方で整理するのが基本です。
統合的動機づけと道具的動機づけ
ガードナーとランバートは、ことばを学ぶ目的によって、動機づけを2つに分けました。
| 動機づけ | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 統合的動機づけ | その言語を話す人や文化に親しみ、仲間に加わりたい | 日本のアニメが好きで、日本人の友だちと話したい |
| 道具的動機づけ | 就職・進学・資格など、実際の利益のために学ぶ | 日本の会社で働くために、日本語能力試験に合格したい |
内発的動機づけと外発的動機づけ
もう一つは、やる気が自分の内側から出ているか、外からの働きかけによるか、という分け方です。
| 動機づけ | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 内発的動機づけ | 学ぶこと自体が楽しい、おもしろいから学ぶ | 新しいことばを覚えるのが楽しい |
| 外発的動機づけ | ほうび・評価・罰など、外からの働きかけで学ぶ | 成績を上げるため、親にほめられるため |
一般に、内発的動機づけのほうが長続きしやすいとされています。
ただし、どちらがよい・悪いではなく、外発的動機づけから始まって、だんだん学ぶこと自体が楽しくなることもあります。
ポイント② 外国語学習の不安
外国語を学ぶときや使うときに感じる不安を、外国語学習不安(言語不安)といいます。
ホーウィッツらは、この不安を3つに整理しました。
- コミュニケーション不安:人と話したり、人前で発表したりすることへの不安
- テスト不安:試験や評価で失敗することへの不安
- 否定的評価への恐れ:間違えたときに、ほかの人からどう思われるかを気にする不安
不安が強すぎると、学んだことを思い出せなくなったり、話す機会を避けたりして、学習の妨げになります。
第16回で学んだクラッシェンの情意フィルター仮説も、不安が強いとインプットが取り込まれにくくなる、という考え方でした。
ポイント③ 自信を育てる手助け
「自分ならできそうだ」という見込みのことを、自己効力感といいます(バンデューラ)。
自己効力感が高い学習者は、難しい課題にも挑戦しやすく、失敗してもあきらめにくいとされています。
自己効力感を育てるいちばんの方法は、小さな成功体験を重ねることです。
| 手助けの例 | ねらい |
|---|---|
| 少しがんばればできる課題から始める | 「できた」という経験を積ませる |
| 全体の前で答える前に、ペアで確認する時間をとる | 人前で話す不安を下げる |
| 誤りをその場で直しすぎず、伝えようとしたことをほめる | 否定的評価への恐れを和らげる |
| 学習者が自分で目標を決め、達成をふり返る | 内発的動機づけと自信を育てる |
ほかにも、意味がはっきりわからない状態をどれだけ受け入れられるか(曖昧さへの寛容度)なども、学習に影響する性格面の要因として知られています。
学習者はここでつまずく
答えがわからないのではなく、みんなの前で間違えることへの不安が強いためです。
ホーウィッツの3つの不安のうち、否定的評価への恐れにあたります。
確認クイズ(5問)
答えを考えてから、「答えを見る」を押してください。
Q1. その言語を話す人や文化に親しみ、仲間に加わりたいという気持ちから学ぶ動機づけはどれ?
① 統合的動機づけ ② 道具的動機づけ ③ 外発的動機づけ ④ 内発的動機づけ
答えを見る
正解:① 統合的動機づけ
ガードナーとランバートが、道具的動機づけと対にして示しました。
Q2. 日本の会社に就職するために日本語を学ぶ、という動機づけはどれ?
① 統合的動機づけ ② 道具的動機づけ ③ 内発的動機づけ ④ 情意フィルター
答えを見る
正解:② 道具的動機づけ
就職・進学・資格など、実際の利益のために学ぶ動機づけです。
Q3. 新しいことばを覚えること自体が楽しくて学ぶ、という動機づけはどれ?
① 外発的動機づけ ② 道具的動機づけ ③ 内発的動機づけ ④ 統合的動機づけ
答えを見る
正解:③ 内発的動機づけ
ほうびや評価など、外からの働きかけで学ぶのは外発的動機づけです。
Q4. 間違えたときに、ほかの人からどう思われるかを気にする不安はどれ?
① コミュニケーション不安 ② テスト不安 ③ 否定的評価への恐れ ④ 逆カルチャーショック
答えを見る
正解:③ 否定的評価への恐れ
ホーウィッツらが整理した外国語学習不安の一つです。
Q5. 「自分ならできそうだ」という見込みを何という?(バンデューラが提唱)
① 曖昧さへの寛容度 ② 自己効力感 ③ 学習者オートノミー ④ 化石化
答えを見る
正解:② 自己効力感
小さな成功体験を重ねることで育ちます。
まとめ

- 目的のちがい:統合的動機づけと道具的動機づけ(ガードナーとランバート)
- やる気の出どころ:内発的動機づけと外発的動機づけ
- 外国語学習不安:コミュニケーション不安・テスト不安・否定的評価への恐れ(ホーウィッツら)
- 「自分ならできそう」という見込み=自己効力感(バンデューラ)
- 小さな成功体験と、間違えても大丈夫な教室づくりで不安を下げる
第19回では、学習を左右するやる気や不安と、教師の手助けの仕方を学びました。
これで「言語と心理」の区分は終わりです。
次回の第20回からは「言語と教育」の区分に入り、最初は「日本語教師の資質・能力」です。
講座の全体は、50項目講座の目次から確認できます。
※到達目標は、文部科学省「登録日本語教員 実践研修・養成課程コアカリキュラム」の必須の教育内容から引用しています。動機づけ(Gardner & Lambert)、外国語学習不安(Horwitz, Horwitz & Cope, 1986)、自己効力感(Bandura)は、第二言語習得・教育心理学の一般的な解説にもとづいてまとめています。