この項目は、アメリカ・カナダ・ドイツ・フランス・シンガポール・中国・韓国・オーストラリアが、移民や多民族の社会の中でことばをどう扱ってきたかと、日本の言語政策(公用語・共通語・標準語、国語施策、日本語教育の参照枠)を、国ごとのキーワードで整理する回。
50項目講座の第5回は、「社会・文化・地域」の区分から「言語政策」です。
言語政策とは、国や社会が、どのことばを公用語にするか、学校で何語を教えるか、移民にどんなことばの支援をするかといったことを決める取り組みのことです。
日本語の教室には、いろいろな国から学習者が来ます。
その国の言語政策を知っていると、学習者がどんなことばの環境で育ってきたのかが見えてきます。
動画で学ぶ「言語政策」(約6分)
この回の要点を、LULUとHARUの会話で約6分の動画にまとめました。
通勤中や家事の合間に、耳で聞くだけでも復習できます。
最後の確認クイズ2問で、覚えたかどうかを試してみてください。
この項目で求められること
文部科学省のコアカリキュラムでは、この項目の到達目標を「諸外国及び日本における言語政策について理解している」としています。
試験では、国と、その国の政策・法律・キーワードの組み合わせがよく問われます。
国の数が多いので、次の3つの見方で整理すると覚えやすくなります。
- 公用語:その国は、何語を公用語にしているか(1つか、複数か、決めていないか)
- 移民とことば:移民にどんな言語教育をしているか(統合講習・バイリンガル教育など)
- 学校のことば:子どもに何語を、どう教えているか(イマージョン・母語教育など)
ポイント① 北米(アメリカ・カナダ)
アメリカ合衆国
アメリカは、国としては公用語を法律で決めていません。
ただ、州ごとに見ると、30以上の州で英語が公用語になっていて、ハワイ州のように英語と先住民族のことば(ハワイ語)の両方を公用語にしている州もあります。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 1968年 | 連邦のバイリンガル教育法が成立。英語を母語としない子どもへの教育支援が制度になる |
| 1970年代後半〜 | ヒスパニック系住民の急増への反発からイングリッシュ・オンリー運動が広がり、のちに英語公用語化運動へ |
| 2002年 | バイリンガル教育法による補助金の制度がなくなる |
バイリンガル教育法は、少数言語を母語とする子どもの母語を保ちながら、教育を受ける機会を保障するための法律でした。
一方で、すべての州が英語だけの方向に進んだわけではなく、フロリダ州などでは、英語を大切にしながら多言語の使用も認めるイングリッシュ・プラスの政策をとっています。
カナダ
カナダは、フランス系やイギリス系だけでなく、イヌイットなどの先住民族や、さまざまな国からの移民が暮らす多民族国家です。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 1969年 | 連邦公用語法。英語とフランス語の2つを国の公用語にし、行政サービスを両方の言語で行う |
| 1971年 | トルドー首相のもとで、世界で初めて多文化主義政策を表明 |
| 1982年 | カナダ権利と自由の憲章でも多文化主義をうたう |
| 1988年 | 世界で初めての多文化主義法ができる |
言語教育で有名なのが、フレンチ・イマージョン・プログラムです。
英語を話す地域の子どもが、算数や理科などの教科をフランス語で学び、フランス語を母語と同じくらいの水準まで身につけることをめざします。
このように、教科の授業を第二言語で行うことをイマージョン・プログラムといいます。
試験ではこう問われる
- アメリカのバイリンガル教育法(1968年)と、イングリッシュ・オンリー運動の対比
- カナダの多文化主義政策(1971年・世界初)と多文化主義法(1988年)
- イマージョン・プログラムの説明(教科を第二言語で学ぶ)
ポイント② 欧州(ドイツ・フランス)
ドイツ
ドイツの公用語はドイツ語です。
第二次世界大戦のあとの経済復興の時期に、人手不足を補うため、ゲストワーカーと呼ばれる多くの外国人労働者を受け入れました。
1973年に新しい受け入れを止めましたが、家族を呼び寄せて定住する人が多く、移民の背景を持つ人は今では人口の約3割にのぼります。
少子高齢化と人手不足を背景に、ドイツは移民政策を大きく変えました。
2005年に施行された新移民法で、移民がドイツ社会に溶け込めるよう国が支援する体制が整えられ、移民向けの統合講習が制度になりました。
| 統合講習の内容 | 中身 |
|---|---|
| 語学講習 | ドイツ語を身につける |
| オリエンテーション(市民教育コース) | ドイツの法律や歴史、文化、日常生活の知識を学ぶ |
語学講習の終わりには入国者のためのドイツ語テスト(DTZ)を受け、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)のB1レベルをめざします。
フランス
フランスは1992年に憲法を改正し、「共和国の言語はフランス語である」と書き加えました。
グローバル化や英語の広がりに対抗し、フランス語の地位をはっきりさせるねらいがありました。
1994年にはトゥーボン法(フランス語の使用に関する法律)ができ、公共性の高い場面でフランス語を使うことが義務になりました。
一方で、国内の地方のことばや少数言語を軽く扱っているという批判もあり、2008年の憲法改正では「地方言語はフランスの遺産である」と書き加えられました。
移民については、2006年に、経済や社会への貢献が見込まれる人を選んで受け入れる選択的移民政策に切りかえています。
移民の子どもへの言語教育では、1973年にポルトガルと協定を結び、子どもが出身国の言語や文化を受け継げるようにしました。
その後、スペインやイタリア、アルジェリアなどとも同じような協定を結び、公立小学校で出身国の言語教育が行われています。
試験ではこう問われる
- ドイツの新移民法(2005年)と統合講習(語学講習+オリエンテーション、DTZ、B1)
- フランスのトゥーボン法(1994年)と、憲法の「共和国の言語はフランス語である」
- 選択的移民政策の説明(貢献が見込まれる移民を選んで受け入れる)
ポイント③ アジア(シンガポール・中国・韓国)
シンガポール
シンガポールは、中国系の人(華人)、マレー系の人、インド系の人などが暮らす多民族国家です。
公用語は英語・マレー語・中国語(北京語)・タミル語の4つで、国語はマレー語、実際の共通語として英語が重視されています。
1966年には、英語と母語のバイリンガル教育政策が始まり、今もすべての小学校で、英語と母語(マレー語・タミル語・中国語のどれか)を学ぶことが義務になっています。
シンガポールで話される英語には、文法が簡単になったり、発音が中国語やマレー語の影響を受けたりしたシングリッシュもあります。
政府は正しい英語を話すよう呼びかけ、2000年から「良い英語を話そう運動(SGEM)」を行っています。
2020年の国勢調査では、家庭でもっともよく話す言語として英語を選んだ人が約48%にのぼりました。
中国
中国には、人口の約9割を占める漢民族のほかに、55の少数民族が住んでいて、80以上の言語があるとされます。
共通語としての中国語は、北京語をもとにした普通話(プートンホア)で、2001年施行の国家通用語言文字法で国の共通語と定められています。
漢字は、1951年から文字の改革が進められ、1956年の漢字簡化方案で簡体字が正式な字体になりました。
一方、台湾や香港、マカオでは、今も主に繁体字が使われています。
| 繁体字 | 簡体字 | 日本の字体 |
|---|---|---|
| 廣 | 广 | 広 |
| 雲 | 云 | 雲 |
| 學 | 学 | 学 |
韓国
韓国の公用語は韓国語(韓国手話も公用語)で、文字はハングルです。
1948年のハングル専用に関する法律で、公文書をハングルで書くことが示され、1970年には漢字を全廃することが決まりました。
その後、漢字の教育を求める動きもあり、1972年には中学・高校で漢字を教えることになり、今も漢字をめぐる議論は続いています。
2005年の国語基本法では、公文書はハングルで書くことが原則とされています。
試験ではこう問われる
- シンガポールの4つの公用語と、シングリッシュ・SGEM
- 中国の普通話(北京語がもと)と国家通用語言文字法(2001年)、簡体字と繁体字
- 韓国のハングル専用の流れと、漢字教育をめぐる議論
ポイント④ 大洋州(オーストラリア)
オーストラリアの公用語は英語ですが、先住民のことばも含めて200以上の言語が話されています。
これらのことばは「外国語」ではなく、コミュニティ言語と呼ばれます。
かつては、有色人種の移民を認めない白豪主義をとっていましたが、1966年の移民法の改正のあと、アジア系の移民が急に増え、1970年代以降は多文化主義へと変わっていきました。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 1987年 | LOTE(英語以外の言語)の政策。日本語を含む9つの優先学習言語を指定 |
| 1994年 | NALSAS(アジア言語文化特別教育プログラム)。中国語・日本語・インドネシア語・韓国語を重点に |
| 2009年 | NALSSP(学校におけるアジア語・アジア学習推進計画) |
| 2012年 | 白書『アジアの世紀における豪州』。日本語は学校で学ぶべき言語の一つに |
| 2015年 | 全国共通のカリキュラム(Australian Curriculum)の「日本語」を公開 |
移民への言語教育が大切にされるようになり、ガルバリー報告書で、初めて英語以外の言語教育の必要性が示されたことも、この流れのきっかけです。
オーストラリアは、海外で日本語を学ぶ人が多い国の一つで、その背景には、こうした国の言語政策があります。
試験ではこう問われる
- 白豪主義から多文化主義への転換と、コミュニティ言語という呼び方
- LOTE(1987年)の説明(英語以外の優先学習言語として9言語、日本語も含む)
- NALSASで重点になった4言語(中国語・日本語・インドネシア語・韓国語)
ポイント⑤ 日本の言語政策
公用語・共通語・標準語
「公用語」「共通語」「標準語」は、それぞれ意味がちがうことばです。
| ことば | 意味 |
|---|---|
| 公用語 | 法律や国会、学校教育など、国を運営するうえで使うと国が決めたことば |
| 共通語 | ちがうことばを話す人どうしが、通じ合うために使うことば |
| 標準語 | ある言語の中で、手本になるとされることば(NHKのアナウンサーや教科書の日本語など) |
日本語では、共通語と標準語はどちらも「方言」と対になることばとして使われ、混同されやすいです。
教育の分野では、近年「標準語」の代わりに「共通語」ということばが使われるようになっています。
また、日本では法律で公用語を決めているわけではありませんが、法令や学校教育の「国語」は日本語で、実質的な公用語は日本語だといえます。
国語施策
国語施策では、文化審議会国語分科会(以前の国語審議会)の話し合いにもとづいて、次のようなものが内閣告示・内閣訓令になっています。
- 常用漢字表(今は2,136字・2010年改定)
- 現代仮名遣い
- 送り仮名の付け方
- 外来語の表記
- ローマ字のつづり方
これらは、ふだんの社会生活で日本語を書くときの「目安・よりどころ」とされています。
日本語教育の参照枠
日本語を母語としない人への日本語教育では、2021年に文化審議会国語分科会から「日本語教育の参照枠」が公開されました。
日本語を学ぶ段階に応じた、学習・教え方・評価の内容と方法を示した、国内外で共通の枠組みです。
参照枠では、学習者を、社会の一員として人と関わりながら、日本語を使ってさまざまな課題を解決しようとする存在としてとらえています。
母語話者の日本語を、必ずしも最終的なゴールとはしていないのも特徴です。
- 日本語の力を、CEFRにもとづいてA1からC2までの6段階で示す
- 「日本語で何ができるか」を言語能力記述文(Can-do)で表す
- 「聞く」「読む」「話す(やりとり・発表)」「書く」の言語活動ごとに示す
日本語教育の参照枠は、第21回の日本語教育プログラムの理解と実践でもくわしく扱っています。
試験ではこう問われる
- 公用語・共通語・標準語の意味のちがい
- 日本は法律で公用語を決めていない(実質的な公用語は日本語)こと
- 日本語教育の参照枠(2021年)の特徴(6段階・Can-do・言語活動別)
学習者はここでつまずく
台湾や香港出身の学習者は繁体字に慣れていて、「學」「廣」のような形と日本の字体を行き来して迷うこともあります。
また、シンガポール出身の学習者のように複数の言語で育った人や、国が決めた「正しいことば」を強く意識する国から来た人もいて、方言やくだけた話し方への感じ方もさまざまです。
確認クイズ(5問)
答えを考えてから、「答えを見る」を押してください。
Q1. 1971年に世界で初めて多文化主義政策を表明した国はどこ?
① アメリカ ② カナダ ③ オーストラリア ④ シンガポール
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正解:② カナダ
トルドー首相のもとで表明し、1988年には世界で初めての多文化主義法もつくりました。
Q2. 2005年の新移民法で、移民向けの「統合講習」を制度にした国はどこ?
① フランス ② ドイツ ③ カナダ ④ オーストラリア
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正解:② ドイツ
統合講習は、ドイツ語の語学講習と、法律や歴史・文化を学ぶオリエンテーションの2つでできています。
Q3. シンガポールの公用語にふくまれないものはどれ?
① 英語 ② マレー語 ③ タミル語 ④ 広東語
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正解:④ 広東語
公用語は英語・マレー語・中国語(北京語)・タミル語の4つです。国語はマレー語です。
Q4. 1994年に制定され、公共性の高い場面でフランス語を使うことを義務づけたフランスの法律はどれ?
① 新移民法 ② トゥーボン法 ③ 連邦公用語法 ④ 国語基本法
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正解:② トゥーボン法
グローバル化や英語の広がりに対抗し、フランス語の地位を守るねらいがありました。
Q5. 「ちがうことばを話す人どうしが、通じ合うために使うことば」を何という?
① 公用語 ② 標準語 ③ 共通語 ④ 方言
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正解:③ 共通語
公用語は国が使うと決めたことば、標準語は手本になるとされることばです。
まとめ

- アメリカ:国の公用語はなし。バイリンガル教育法(1968)とイングリッシュ・オンリー運動/カナダ:多文化主義政策(1971・世界初)とフレンチ・イマージョン
- ドイツ:新移民法(2005)と統合講習(DTZ・B1)/フランス:トゥーボン法(1994)と選択的移民政策
- シンガポール:4つの公用語とSGEM/中国:普通話と簡体字/韓国:ハングル専用
- オーストラリア:白豪主義 → 多文化主義、LOTE(1987)で日本語も優先学習言語に、NALSAS
- 日本:公用語・共通語・標準語のちがい、国語施策、日本語教育の参照枠(2021)
第5回では、諸外国と日本の言語政策を、公用語・移民とことば・学校のことばの3つの見方で学びました。
次回の第6回「日本語の試験」では、日本語能力試験など、日本語の力をはかる試験を見ていきます。
講座の全体は、50項目講座の目次から確認できます。
※年や制度は、各国政府・文化庁・文部科学省などの公表資料と、言語政策の一般的な資料にもとづき、2026年10月時点でまとめています。到達目標は、文部科学省「登録日本語教員 実践研修・養成課程コアカリキュラム」の必須の教育内容から引用しています。項目の論点は、その解説書の章立ても参考に整理しています。