社会言語学は、同じ日本語でも、話す人の属性(性別・年齢・職業など)や場面、住んでいる地域によってことばが変わるしくみを考える分野。試験では社会方言と地域方言の用語(役割語・ティーチャートーク・周圏分布型・新方言など)と、提唱した人の組み合わせがよく問われる。
50項目講座の第8回からは、2つ目の区分「言語と社会」に入ります。
最初の項目は「社会言語学」です。
難しそうな名前ですが、「なぜ人によって、場面によって、地域によって話し方が変わるのか」を考える、とても身近な分野です。
動画で学ぶ「社会言語学」(約7分)
この回の要点を、LULUとHARUの会話で約7分の動画にまとめました。
通勤中や家事の合間に、耳で聞くだけでも復習できます。
最後の確認クイズ2問で、覚えたかどうかを試してみてください。
この項目で求められること
文部科学省のコアカリキュラムでは、この項目の到達目標を「同一言語内における言語変種とその要因及び言語が使用される社会における言語使用の実態や、言語行動を支える社会的・文化的慣習について理解している」としています。
少しかたい表現ですが、同じ言語の中にあるいろいろな「ことばのちがい」と、そのちがいが生まれる理由を理解することが求められています。
試験では、用語の意味と、その考え方を示した研究者の名前の組み合わせがよく出ます。
ポイント① 言語変種とは
地域方言と社会方言
同じ言語の中にある、さまざまなバリエーションを言語変種といいます。
言語変種は、大きく次の2つに分けられます。
| 種類 | 何によって変わるか | 例 |
|---|---|---|
| 地理的変種=地域方言 | 話されている地域 | 関西方言、東北方言など |
| 社会的変種=社会方言 | 性別・年齢・職業など話し手の属性と、使う場面 | 男女による言い方のちがい、若者言葉、業界用語など |
同じ言語の中のこうしたちがいは、「位相差」と呼ばれることもあります。
「言語」と「方言」の境目
どこまでが同じ言語の方言で、どこからが別の言語なのかは、はっきり線を引けません。
たとえば、中国語の地域による差はとても大きいのに、すべて「中国語の方言」とされます。
反対に、スウェーデン語・デンマーク語・ノルウェー語は、たがいに差が小さいのに、別々の「言語」とされています。
このように、言語か方言かの区別には、国の分け方など政治的な事情が強く関わることがあります。
場面による切り替え
同じ人でも、相手や場面によって話し方を変えます。
上司にはていねいに、友だちにはくだけた話し方をするように、場面に合わせて話し方を切り替えることをスタイルシフトといいます。
試験ではこう問われる
- 地域方言(地理的変種)と社会方言(社会的変種)の区別と、それぞれの例
- 言語と方言の区別には、政治的な事情が関わることがある
ポイント② ジェンダーと若者言葉
ジェンダーによることばのちがい
「男言葉」「女言葉」のように、話し手のジェンダーによって使うことばが変わることがあります。
ここでいうジェンダーは、体のちがいではなく、社会や文化の中でつくられた性差のことです。
日本語では、次のような所にジェンダーの差が出やすいといわれます。
- 自分の呼び方(自称詞):「ぼく」「おれ」「あたし」
- 文末の終助詞:「〜ぞ」「〜わ」「〜の」
- 語彙:「ごはん/めし」「食べる/食う」
- 発音:「すごい/すげえ」
会話のスタイルにも差があるといわれます。
情報を伝えることを重視する話し方をリポート・トーク、相手との関係づくりを重視する話し方をラポート・トークといい、男性は前者、女性は後者が多い傾向があるとされます。
ただし、こうした差は「女性はこう話すべき」という規範意識や、「女性はこう話すものだ」というステレオタイプ(決めつけたイメージ)の影響を強く受けていて、実際の話し方とはちがうことも多い点に注意が必要です。
また、「女医」「女優」のように女性にだけ印をつける言い方や、「保母」「看護婦」のように女性だけを指す職業名もありました。
今は「保育士」「看護師」のように、性別に関係のない言い方が一般的になっています。
若者言葉
若者言葉は、年齢・世代による社会方言の一つで、主に10代から20代が使うことばです。
学校やSNS、アニメやゲームなどから生まれる流行語やネットミームも含まれ、次のような特徴があります。
| 特徴 | 例 |
|---|---|
| 短く縮める(略語) | 「バズる」「エモい」「KY」 |
| 気持ちや共感を表す | 「ぴえん」「それなー」 |
| はっきり言わずにぼかす | 「〜とか」「〜みたいな」「〜たりして」 |
若者言葉には、同じ世代の仲間意識を強めるはたらきがあるといわれます。
すぐに消えることばもあれば、世代をこえて定着することばもあります。
たとえば「見れる」「食べれる」などのら抜き言葉は、かつては若い人のことばの乱れと批判されましたが、今では幅広い世代に広がっています。
試験ではこう問われる
- リポート・トーク(情報重視)とラポート・トーク(関係重視)のちがい
- ジェンダー差は規範意識やステレオタイプの影響を受け、実際の使い方とちがうことがある
- ら抜き言葉のように、若者言葉が世代をこえて定着する例
ポイント③ 幼児語・専門語・役割語
幼児語と育児語
小さな子どもが母語を身につける途中で使うことばを幼児語といいます。
「わんわん」「ブーブー」のような擬声語・擬音語や、「おてて」「ねんね」のような同じ音のくり返しが多いのが特徴です。
「おいちい」のように、口や舌がまだ十分に発達していないために生まれる形もあり、成長するにつれて使わなくなります。
大人が子どもに向けて使う場合は育児語と呼んで区別することがあります。
また、大人が赤ちゃんに話しかけるときの、高い声で抑揚を大きくつけた話し方をマザリーズといいます。
専門語(ジャーゴン)
特定の職業や集団の中だけで使われる特別なことばを、専門語(ジャーゴン)といいます。隠語や職業語ともいいます。
つくり方はさまざまです。
- 音の順番を入れかえる(倒語):「パイセン(先輩)」「ザギン(銀座)」
- 外来語を使う:飲食店の「ダスター(ふきん)」「バッシング(食器を下げること)」
- 短く縮める(略語):警察の「マトリ(麻薬取締部)」
- 漢字の部首を使う:「サンズイ(汚職事件)」
専門語は仲間の中ではやりとりをスムーズにしますが、外の人にはわかりにくく、外の人を遠ざけるはたらきもあります。
そのため、医療や行政など多くの人に関わる分野では、だれにでもわかることばを使うことが大切です。
国立国語研究所が2002年から2006年にかけて発表した「『外来語』言い換え提案」も、こうした考え方にもとづいています。
役割語
「そうじゃ、わしが博士じゃよ」と聞くと、白髪で白衣を着たおじいさんの博士が思いうかびます。
このように、ある話し方から特定の人物像(年齢・性別・職業・時代・性格など)が思いうかぶとき、その話し方を役割語といいます。
金水敏が『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』(2003年)で示した考え方です。
| 人物像 | 話し方の例 |
|---|---|
| 博士 | 「〜じゃ」「わし」 |
| お嬢様 | 「〜ですわ」「あたくし」 |
| 武士 | 「〜でござる」「拙者」 |
役割語の多くは、マンガやアニメなどの中のイメージから生まれたもので、実際にそう話す人はほとんどいません。
そのため、役割語は「バーチャル日本語」ともいわれます。
物語の中では人物の特徴をすぐに伝えられて便利ですが、偏見につながることもあるので、日本語教育で使うときは注意が必要です。
試験ではこう問われる
- 幼児語(子どもが使う)と育児語(大人が子どもに使う)の区別、マザリーズの意味
- 専門語(ジャーゴン)のつくり方と、集団の外の人を遠ざけるはたらき
- 役割語=金水敏、実際の使い方をともなわない「バーチャル日本語」
ポイント④ ティーチャートーク
教師の話し方の調整
教室で教師が学習者に向けて使う、わかりやすく調整した話し方をティーチャートークといいます。
日本語教師にとって、いちばん身近な社会方言といえます。
| 調整のしかた | 例 |
|---|---|
| 音声 | 一つひとつの音をはっきり発音する、大事なところを強めに言う、文節ごとに区切って話す |
| 文法 | 長い文(複文)を短い文(単文)に分けて話す |
| 語彙・文型 | 学習者がもう習ったことばや文型の範囲で話す |
IRF構造
教室では、次のような3段階のやりとりがよく見られます。
- 教師:「今、何時ですか。」(I:Initiation=働きかけ)
- 学習者:「3時です。」(R:Response=応答)
- 教師:「はい、そうですね。」(F:Feedback=フィードバック)
これをIRF構造といい、教室に特有の会話の形です。
教師は答えを知っているのに質問している点で、ふだんの会話とはちがいます。
調整しすぎにも注意
ティーチャートークは、学習者が理解できるインプット(理解可能なインプット)を与えるのに役立ちます。
一方で、教師がいつも先回りして調整すると、学習者が「わからない」と聞き返したり、言い直したりする意味交渉の機会がなくなってしまいます。
教室の外の、調整されていない日本語にも対応できるよう、やりとりの質を高める工夫が求められます。
試験ではこう問われる
- ティーチャートークの具体的な調整(音声・文法・語彙)
- IRF構造のI・R・Fがそれぞれ何を指すか
- 調整は理解可能なインプットに役立つが、意味交渉の機会を奪わない工夫も必要
ポイント⑤ 地域方言
方言区画
方言の分布を調べて、地域を区分する研究を方言区画論といいます。
今もよく参照されるのは、東条操による方言区画です。
| 東条操の方言区画 | |
|---|---|
| 本土方言 | 東部方言(北海道・東北・関東・東海東山・八丈島) |
| 西部方言(北陸・近畿・中国・雲伯・四国) | |
| 九州方言(豊日・肥筑・薩隅) | |
| 琉球方言 | 奄美方言・沖縄方言・先島方言 |
このほか、アクセントの体系で分けた金田一春彦の区画や、敬語の体系で分けた加藤正信の区画もあります。
東西分布型
東日本と西日本で、はっきりちがいが出ることばがあります。これを東西分布型といいます。
| 西日本 | 東日本 | |
|---|---|---|
| いる(存在) | おる | いる |
| 〜だ(断定) | 〜じゃ・〜や | 〜だ |
| 〜ない(打消) | 知らん・知らぬ | 知らない |
| 命令形 | 見よ・見い | 見ろ |
| 音便 | 買うた | 買った |
「塩辛い」を西では「からい」、東では「しょっぱい」というように、語彙にもちがいがあります。
この東西の境目を東西言語境界線といい、ことばによって少しずれますが、新潟県の糸魚川と静岡県の浜名湖を結ぶ線が一つの目安です。
周圏分布型
新しいことばが文化の中心地で生まれ、池に石を落としたときの波紋のように、少しずつ周りへ広がっていくと考えてみましょう。
すると、中心には新しい形があり、中心から遠いほど古い形が残ることになります。
柳田国男は『蝸牛考』(1930年)で、「カタツムリ」を表すことばが、京都を中心に次のように円をえがいて分布していることを示しました。
- 京都(中心):デデムシ → マイマイ → カタツムリ → ツブリ → ナメクジ(外側)
ことばの地域差は、中心から広がった時期のちがいによって生まれる、という考え方で、これを方言周圏論といいます。
トンボの古い言い方「アキヅ」から来た形が、東北と九州南部という、近畿をはさんで東西に離れた地域に残っているのも、その例とされます。
複雑分布型
決まったパターンに当てはまらず、入り組んで分布することばもあります。これを複雑分布型といいます。
たとえば「おたまじゃくし」の呼び方は地域によってさまざまで、分布の法則が見えにくいことが知られています。
小さな動物や虫、子どもの遊びに関わることばに多いといわれます。
新方言とネオ方言
若い世代を中心に、共通語にはなかったことばを、ほかの地域の方言から取り入れたり新しく生み出したりして使う現象を、井上史雄は新方言と呼びました。
たとえば「違う」を「違かった」のように形容詞のように使う言い方は、北関東などの方言が東京に入ってきたものとされます。
「うざい」も、もとは東京の多摩地方の「うざったい」が若い人の間で広まったものといわれます。
一方、方言が共通語とふれあうことで、昔ながらの形から変わっていく現象をネオ方言といいます。真田信治が示した考え方です。
たとえば関西で「来ない」は、昔は「ケーヘン」「キーヒン」でしたが、若い人の間では共通語の「コナイ」の影響を受けた「コーヘン」がよく使われるようになっています。
試験ではこう問われる
- 東条操の方言区画(本土方言と琉球方言、本土方言は東部・西部・九州)
- 周圏分布型=柳田国男『蝸牛考』(カタツムリ)、東西言語境界線の目安(糸魚川と浜名湖)
- 新方言=井上史雄、ネオ方言=真田信治の組み合わせと、そのちがい
学習者はここでつまずく
関西に住む学習者が「ほんま」「あかん」の意味がわからずとまどったり、アニメで覚えた役割語をそのまま使って、相手に不自然な印象を与えてしまったりすることがあります。
また、ティーチャートークに慣れすぎると、教室の外の速くて自然な日本語が聞き取れないこともあります。
確認クイズ(5問)
答えを考えてから、「答えを見る」を押してください。
Q1. 性別・年齢・職業など、話し手の社会的な属性や場面によって生じることばのちがいを何という?
① 地域方言 ② 社会方言 ③ 共通語 ④ 新方言
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正解:② 社会方言
住んでいる地域によるちがいは「地域方言」です。
Q2. 「わしは〜じゃ」のように、話し方から特定の人物像を思いうかべさせることばづかいを何という?また、提唱したのはだれ?
① 新方言・井上史雄 ② 役割語・金水敏 ③ ネオ方言・真田信治 ④ 周圏分布・柳田国男
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正解:② 役割語・金水敏
実際の使い方をともなわないことから、「バーチャル日本語」ともいわれます。
Q3. 教室で見られる「教師の質問→学習者の答え→教師の評価」という3段階のやりとりを何という?
① IRF構造 ② ラポート・トーク ③ スタイルシフト ④ マザリーズ
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正解:① IRF構造
I=Initiation(働きかけ)、R=Response(応答)、F=Feedback(フィードバック)です。
Q4. 「カタツムリ」を表すことばが京都を中心に円をえがくように分布していることを示し、方言周圏論を唱えたのはだれ?
① 東条操 ② 金田一春彦 ③ 柳田国男 ④ 井上史雄
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正解:③ 柳田国男
『蝸牛考』(1930年)で示しました。東条操は方言区画、金田一春彦はアクセントによる区画で知られています。
Q5. 関西の若い人の間で、「来ない」を共通語の影響を受けた「コーヘン」と言うようになった現象を何という?
① 新方言 ② ネオ方言 ③ ら抜き言葉 ④ 役割語
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正解:② ネオ方言
方言が共通語とふれあって変わっていく現象で、真田信治が示しました。ほかの地域の方言などが共通語に入ってくる「新方言」(井上史雄)と区別しましょう。
まとめ

- 同じ言語の中のバリエーション=言語変種。地域方言(地域)と社会方言(属性・場面)に分かれる
- ジェンダー:リポート・トーク/ラポート・トーク、規範意識やステレオタイプの影響。若者言葉のら抜き言葉は定着
- 幼児語と育児語・マザリーズ、専門語(ジャーゴン)、役割語=金水敏(バーチャル日本語)
- ティーチャートークとIRF構造。理解可能なインプットと意味交渉のバランス
- 地域方言:東条操の方言区画、東西分布型(糸魚川〜浜名湖)、周圏分布型=柳田国男、新方言=井上史雄、ネオ方言=真田信治
第8回では、ことばが人や場面、地域によって変わるしくみを学びました。
次回の第9回「言語政策と『ことば』」では、標準語や公用語のほか、ダイグロシア・コードスイッチング・ピジン・クレオールなど、複数の言語や変種が出会うときの現象を学びます。
講座の全体は、50項目講座の目次から確認できます。
※到達目標は、文部科学省「登録日本語教員 実践研修・養成課程コアカリキュラム」の必須の教育内容から引用しています。項目の論点は、その解説書の章立ても参考に整理しています。